財布をなくした日のこと。

生まれて初めて財布をなくした。

その日(2014/2/9)はワンフェスで、都知事選。
日中はワンフェスに行き、投票は夕方~夜にでも行おうと思っていたのだが、前日に記録的大雪となってしまったため、早起きして様子を見ることにした。
友人と話し合った結果、朝6時時点で電車の運行状況もあやしいし、ひとまず様子見しようということになった。
いつもなら寝ている時間だし、二度寝でもしようかと思ったが、せっかくこれだけ雪が積もったし早起きもしたのだし、投票がてら散歩に行こうと決めた。

そそくさと着替えを済ませ、投票に必要な紙を折りたたんで財布に入れた。
投票所は自宅から徒歩10分程度のところで、特に鞄も不要だろうとコートの右ポケットに、財布、スマフォ、手袋をいれた。左ポケットには手袋、残り1本しかない煙草、ライター。
少し大きめの作りとはいえ、右ポケットはかなりぱんぱんになってしまい、スマフォを出し入れする際に手袋を落としてしまわないかなと思ったが、普段コンビニに行く時もこうなのでそのままにした。
そして私は出発した。
自宅を出て、1分くらいのところにまだ誰にも踏まれていない新雪ゾーンがあった。
テンションがあがっていた私はそこに足を突っ込み、ポケットからスマフォを取出し写真を撮った。
東京生まれ東京育ち、悪そうな奴らからはだいたい目をそらして生きてきた私にとって、地元にこれだけ雪が積もるのはほぼ初体験だった。
旅行で雪山などに行ったことはあるが、普段目にしている景色が雪に包まれているというのは、非日常感が強くてわくわくする。
 

f:id:maverick_wolf:20140210163949j:plain



 
Twitterに投稿して、スマフォは手に持ったまま歩を進めた。
道中には空手教室があり、そこの門下生とおぼしき少年たちが雪で遊んでいるのを横目に進んでいく。
やがて公園につくと、もちろんそこも雪に覆われていた。
雪に埋もれた遊具はこれから先、再び目にすることができるかわからない。
 
 f:id:maverick_wolf:20140209073239j:plain

引き続き数枚写真を撮り、少し先にある煙草屋に意識を向けた。
手持ちは1本しか残っていないので、営業していれば新しく購入して、一服してから投票所に向かおうと思ったのだ。
私は財布を取り出そうと右ポケットに手を入れ、そこで初めて気が付いた。

ない! 財布ない! ポケットすっかすか! すっかーすか!

確かにポケットに入れた記憶はある。あるが、もしかしたら家を出るときに手袋を入れ忘れたことに気付いたので、一度ポケットから出してそのまま無意識で置いてきてしまったのかもしれない。
いや、そうに決まっている。いままで定期券は何度も落としたが財布を落としたことはない。
それに家を出てから10分と経っていない。忘れただけなのだ。
 


 
そう自分に言い聞かせながらも、不安は拭いきれなかった。
来た道を引き返しながら、注意深く地面に視線を這わせた。
帰宅すると両親が早かったねというので財布わすれたと告げ、自室へ。
しかしやはり財布の姿はない。
これはもう、完全にやらかした。確信した。
 



財布の中にはあらゆるキャッシュカード、健康保険証、極めつけは自宅と職場の鍵が入っている。
もしかしたら家にあるかもしれない……と一縷の希望にすがりながらも、家族のすすめもあり、警察に遺失届を出すことにした。
交番は自宅から徒歩5分の場所にある。中年の警官は親身になってくれず、かといって面倒くさそうでもなく、極めてニュートラルに応対してくれた。
書類に住所、氏名、紛失した場所、時間、物品の詳細を記入して、受付番号を発行されて帰宅した。
しかしいてもたってもいられない私は、引き続き財布の捜索をすることにした。どうせ道のりは同じなのだからと投票にも行くことにした。
投票の際に必要な用紙も財布と一緒に行方不明になっていたが、それは再交付してもらえると友人が教えてくれた。
 
再度家を出ると、最初に歩いていたときは誰もいなかったのに、いまは雪かきをする人がちらほら出てきていた。
その人達に無駄とはわかりつつ、財布を落としてしまったので万が一見つけたら警察に届けてもらえるようお願いをして回った。
 



投票所についたので、受付のお姉さんに「財布を落としたので投票用紙も身分証明書もすべてなくした」と伝えると向かいにいる担当から再交付してくれるというので、そちらに移動した。
再交付担当のお兄さんは「財布ごとですか!?!?!?」とたいそう同情してくれた。きっと彼も落とした経験があるのだろう。痛みを知る人間はやさしい。
なんとか住所を確認して再交付してもらい、無事に都知事選に参加することができた。
この頃になると日が昇り、雪も溶け始めてグズグズの悪路となっていた。
諦めきれずまた注意深く地面を見つめながら帰路をたどり、母が温めておいてくれた昨晩のカレーを食べて、モーグルとフィギュア団体の再放送を見ながら気が付いたら寝ていた。
 
これが、生まれて初めて財布をなくした日の午前中の出来事すべてです。